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レーザーの歴史

粘膜に照射する美容レーザーの誕生

レーザー機器が実機として開発されたのが1960年代であることを考えると、社歴55年を超えるスロヴェニアのフォトナ社は、老舗中の老舗と言えるレーザー企業であるかと思います。旧ユーゴスラヴィア、つまり東欧旧ソ連圏で独自に進化を遂げた同社は、2010年代初頭当時支社であったFOTONA USAがスロヴェニア本社株を買い上げたことで、一気に美容レーザー大国・米国でもメジャーになる土台ができあがります。

そのフォトナ社が社運を賭けて「XS Dynamis」そして「SP Dynamis」を市場に送り出したのは2015年。開発を担当したのはアルゼンチン・メンドーサ大学教授であり、フォトナ社のKOL(Key Opinion Leader)でもあるDr. Adrian Gasper。美容医療において世界初の口腔内照射を可能にした「スマイルリフト」の誕生です。

たるみの改善、引き締めのために皮膚に熱を入れる場合、皮膚の表層から照射/アプローチする機器が2020年現在でも市場のほとんどを占めます。エネルギーデバイスや周波数によって皮膚の中における熱の深達度は変わりますが、それらさまざまな機器を使い分け、なるべく多くの層に熱を丁寧に届けることでたるみ治療を可能にする、というのが最もポピュラーなアプローチ方法であるからです。

そんな「外側から攻める」技術が未だ主流を行く中、「内側=粘膜から攻めるレーザー」を使用することにより、効率よく熱を深部の組織に届けるというフォトナ社の提案は非常に新しいものでした。

例えば、アレルギー性鼻炎や花粉症の症状を軽減するために鼻粘膜へのCO2レーザー照射などは以前から行われていました。しかし美容やアンチエイジングの分野で導入されるに至ったのはフォトナ社の功績によるところが大きいと、これは皆が認めるところかと思います。結果2014年を境に、美容医療業界でも口腔粘膜や下眼瞼の結膜、膣の老化や加齢によるいびきのケアに対するアプローチなど、身体の内側からの照射を選択できる手法が様々な分野で認知されるようになっていきます。

皮膚に比べて粘膜は感覚が鈍すると言われています。皮膚の外側からの刺激では、通常42~43℃を超えると痛みが生じてくると言われますが、口腔内や下眼瞼などの粘膜においては60~63℃まで耐えると言われ、表面を傷つけることや痛みも生じさせることなく、温度をあげることが可能です。そのため効率よく粘膜下に「バルクヒーティングエリア」を作り、皮膚最深部におけるコラーゲンを増生させることができるのです。

麻酔もいらず、痛みも認識しづらい。熱傷などのリスクもほぼなく、照射後の赤みや痛み、かさぶたなどのダウンタイムも皆無です。

ノンアブレイティブ(非侵襲的)に、コラーゲンのリモデリングとタイトニングに結果を出す。

FOTONA社による「粘膜へのアプローチ」は、たるみ治療にパラダイムシフトを起こしたのです。

粘膜から攻めるたるみ治療「スマイルリフト」

スロヴェニアのフォトナ社が開発したEr:YAGレーザー「XS Dynamis」、その上位機種でエルビウムヤグ(Er:YAG 2940nm)とネオジウムヤグ(Nd:YAG 1064nm)を二つ搭載した最上位機種「SP Dynamis」が市場に登場したのは2015年。多彩な治療モードを設定できるVSP技術(Variable Square Pulse technology)の中から、エルビウムヤグレーザーの中でも長いパルス幅で均一に照射することができる「SMOOTH MODE」を用いて行う施術を「スマイルリフト」と名付けました。

エルビウムヤグは深達度が高いので、粘膜の内側から照射した場合、筋層にまで熱を伝えることができます。

「スマイルリフト」で狙うのは、➀大頬骨筋、➁小頬骨筋、➂口角下制筋、➃口輪筋、➄上唇挙筋、➅口角挙筋、➆上唇鼻翼挙筋、➇頬筋、➈下唇下制筋、⓾オトガイ筋など、口腔内に10ある筋肉群。スマイルリフトを用いた口腔内照射では5連射まで可能となり、非常に効率が良い点でも注目を集めます。中でも、比較的深い部位に存在する➅口角挙筋および➇頬筋をターゲットに熱を加えると施術効果が格段に上がることも支持を得ました。ほうれい線やマリオネットライン、加齢とともに伸びる鼻下などのたるみを引き締め、口角も引き上げるという評判を築いていったのです。

また、下眼瞼の皮膚が隆起したように、または周囲の皮膚に対して段差があるように見えるクマやたるみを気にされている方は少なくありません。これは加齢とともに眼窩脂肪を支えていた眼瞼隔膜や瞼板、靭帯がゆるみ、皮膚の下の脂肪が盛り上がって見えているものです。それまでであれば脱脂手術など外科的な形でしかケアができなかった部分ですが、「スマイルリフトアイ」では、「あかんべー」をするような形でその脂肪を露出し、下眼瞼の結膜に熱を入れていくことでこの隆起が縮小していきます。

膣粘膜のリモデリングへの応用

「粘膜へのアプローチ」はさらに多様なエイジングケアに応用されています。

膣の扁平上皮に対して熱を入れていく女性器に関するレーザーは、先にヨーロッパの女性の間で大人気となり、そのブームは日本にも飛び火しました。

女性の体は35歳以降エストロゲンが減少し始めます。その影響は肌にもちろん及びますが、同様に膣の扁平上皮においても影響があり、ハリがなくなり薄くなる「膣萎縮」が起きるのです。こうした外陰や膣萎縮などの変化は膣の湿潤不足やかゆみ、性交痛、頻尿など不快な症状を引き起こします。また、更年期~シニア世代になると骨盤底筋の弾力性や機能も低下し、膣の弛緩、尿漏れ、骨盤臓器脱、過活動膀胱、外陰部の色素沈着、などなかなか他人に相談しづらい悩みが増えてしまいます。

こうした諸症状対してもFOTONA社がある提案をします。「SP Dynamis pro」を利用したエルビウムヤグフラクショナルレーザー2014年にデビューした「インティマレース」です。

「インティマレース」は膣内、尿道など対象となる部位に応じてハンドピースを変えて挿入し、じっくりと組織を温めるように照射していきます。血流や筋肉が活性し、症状に応じて1~複数回の治療を行うことで膣や尿道の組織がキュッと引き締まり、症状が改善していきます。

このフォトナ社「SMOOTH MODE」のテクノロジーのGSM(閉経関連日尿生殖器症候群・萎縮性膣炎)やSUI(腹圧性尿失禁)に対する有効性は高く、EU、北米エリア、台湾など、様々な国の保健省認可を持っています。

ちなみに、その後エルビウムヤグフラクショナルを用いた追従機種はルートロニック社(韓国)「Petit Lady」、Asclepion社(ドイツ)「Intravaginal Erbium」の2社から出ました。

膣のエイジングケアに対するもう一つのエネルギーデバイスは炭酸ガスフラクショナルレーザー。機種でいえば、「マドンナリフト」でお馴染みの炭酸ガスフラクショナルレーザーを得意とするDEKA社による「モナリザタッチ」です。

こちらは主に膣萎縮の治療に使用します。炭酸ガスフラクショナルレーザーということは、水への吸収率が良く蒸散するけれど熱変性は少ないエルビウムヤグレーザーと比べて、蒸散も熱変性も強く生じます。強力な分、痂皮形成を生じる、多少のヒリヒリ感や浸出液などのダウンタイムもあります。

エルビウムヤグの方が低侵襲ですので、実際に等しい効果が出ているのであればそちらにメリットはありますね。

いびきケアへの応用

軟口蓋に照射することでいびきを止める施術「ナイトレース」もフォトナ社「SP Dynamis pro」の「SMOOTH MODE」を使用して行います。

従来のいびき治療では口蓋垂や軟口蓋を切除するような手術を行い、それには出血や痛みを伴うことや、術後の違和感が1週間程度続くなどのリスクがありました。

「ナイトレース」は、喉の奥、口蓋と咽頭に向けてロングパルスエルビウムヤグレーザーを数千ショット照射するセッションです。一般的には3回ほど照射すると、加齢とともにゆるんだ粘膜がタイトニングし、いびきが消失、もしくは減少します。直後より飲食も可能です。

他にも「リップレース」は、唇に照射することで縦じわを減少し、ハリのある状態に。痩せた唇にふくらみを作りたいけれど、ヒアルロン酸注入には抵抗がある、という方に人気がでました。

このように非侵襲的に患部への負担が軽く、身体の内側の様々な部位にアプローチできるフォトナ社のテクノロジーは、レーザーの様々な可能性を拡げました。The Aesthetic Industry Award 2016では、「マルチユースエナジー機器」部門にフォトナ社「SP Dynamis pro」が選出されました。その後は頭皮下の組織を温めることで血流を改善し、ヘアサイクルの正常化を期待するなど、薄毛治療への活用も模索されています。

「粘膜に照射するレーザー」は、美容医療レーザー機器の市場に、確かな爪痕を残すこととなったのです。

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