TOP

レーザーの歴史

ドラッグデリバリーとは

フラクショナルレーザーの躍進、定着と関連づけて補足しておきたいのが「ドラッグデリバリー(薬剤経皮導入)」です。
2014年あたりから、「ドラッグデリバリー」は学会で注目のトピックの一つとなりました。

フラクショナルレーザーによるドラッグデリバリーは、ワクチン投与やインシュリン投与など、以前の薬剤デリバリーを一気に変えてしまうような、レーザーの新たな使用用途の一つになりえるものです。クリニックFでは、フラクショナルレーザー機器による治療の直後に、各種ペプチドやサイトカインなどの独自配合の創傷治癒促進因子を併用する手法を早くから取り入れていました。僕が書いた論文「レーザー照射後に発生するラジカル群とフラーレン」は、2013年にレーザー医療の世界で最も評価の高い「Lasers in Surgery & Medicine」誌に掲載されており、毎年この分野の世界の論文のサイテーションのベスト10位圏内に選ばれています。

多くの波長やスキャナが開発され、まだまだ進化過程にあるフラクショナルレーザー機器。企業側もフラクショナルレーザー機器によるドラッグデリバリーを重視し、研究に力を入れ始めました。

歴史を遡ると、皮下に注射を使って少量ずつ薬剤を打ち込む方法として「メソセラピー」があります。Michel Pistor(1924–2003)医師が1948年から1952年にかけて完成させた手技で、レーザー治療が今よりも盛んではない頃に、美容医療で主要な役割を占めていた時期があります。

細い注射針で皮下にまんべんなく薬剤を注入するナッパージュ法から始まり、その後メソガンやダーマローラー、さらにはダーマシャイン、ダーマクイーンなどの水光注射が日本でも利用されるようになりました。

しかし、これら注射による注入を圧倒的に上回る方法が登場します。
それが、フラクショナルレーザーアシストによる、皮下へのドラッグデリバリーです。

フラクショナルレーザー機器を使うメリットはいくつもあります。
まず皮膚の任意の深さまで、任意の大きさの孔をあけられること。その密度は1cm四方あたり2000発など、とても人間の手では不可能です。

そして、その肌に開けた孔に、小分子、ペプチド、ワクチン、さらにはセルなどの大きな物質を導入できることが分かっています。

2016年にはドラッグデリバリーの論文を英文で2報書いています。
1本目は「Lasers in Surgery and Medicine誌」に掲載されたもので、「リポソームを薬剤トランクのように用い、フラクショナルレーザーをアシスト照射することで薬剤の皮下への導入を増やす」という試み。

この波長は照射後の皮膚が乾燥し、薬剤が浸潤しやすい状況を作るCO₂の波長を選択し、パワー、照射密度、照射時間をコントロールして行った実験です。

低分子モデル 分子量376 5CF
低分子タンパクモデル 分子量6000 インシュリン
ワクチンモデル 分子量 45000 OVAアルブミン

と、大きさの違うモデル薬剤をリポソームに内封してそれぞれ実験を行い、いずれの薬剤においてもパワー依存性、照射密度依存性、パルス幅依存性に薬剤導入が増すことが確認できました。

フラクショナルレーザーを用いた薬剤導入でメリットがあるのは、美容に限った話ではありません。

針を使って日々インシュリンを導入しなければならない糖尿病患者、予防接種のためにワクチンを注射する小児、組織内圧が高く、そもそも注射が難しいケロイド患者、など様々な医療の場面でメリットが得られるはずです。それらの分野で可能性を感じている医師、機器メーカーもいることでしょう。

また、フラクショナルレーザーで開ける穴を調節することで、さらに大きな、例えばメラノサイトのような細胞を導入することも可能となります。こちらはドラッグではなく、セル(細胞)デリバリーとしての応用です。こうした導入によって、白斑や薄毛の治療などにも大きな福音となるでしょう。

2本目の論文は薬学のジャーナルに掲載されたもので、リポソームに用いるペプチドを、温度応答性に構造変化する変形性のペプチド組み込むことで、崩壊のタイミングをレーザーでコントロールするという内容。皮下に温度応答性のリポソームをしばらく沈降させ、必要な時間にレーザーを照射して皮下温度を上昇させることで薬剤放出をさせることができるのです。

実際にフラクショナルレーザーを使用した後、こうした効果的な薬剤を塗布することで、肌を入れ替える施術を行ってみると、その仕上がりは格段に違います。

例えば「臍帯血細胞増殖時の上澄み液」を、フラクショナルレーザーアシストで肌に導入することで肌を生まれ変わらせる治療。

この液体に多く含まれるサイトカインが今までの治療では不可能だった、細かいしわ治療や肌の弾力の再生など、感触的な老化に対する肌質の若返りを提供できるようになっています。

ニキビ跡や毛穴縮小、さらに加齢した肌を入れ替え、若返らせるのに非常に効果が高いフラクショナルレーザーによるリサーフェシング。マドンナリフトの登場によって、新たなフェーズを迎えたフラクショナルレーザーの世界は、薬剤との組み合わせによってさらなる可能性に満ちているのです。

※当サイトのテキスト&画像の無断転載はお断りいたします。引用される場合はクリニックFのクレジット記載をお願いいたします。