TOP

レーザーの歴史

皮膚をDNAレベルから若返らせる光治療

美容レーザーの需要は高齢化社会に伴い益々市場が拡大しています。
それでは、レーザー機器による肌質の改善とは実際にどのようなことが起きているのでしょうか?それに対する興味深い答えをくれたのがスタンフォード大学の協力により2012年に発表された、米国サイトン社が関わっている研究です。

この研究のプレゼンテーションは衝撃的でした。
その内容とは、「若年者と加齢した皮膚の遺伝子発現の差異から老化に関わる2265のRNAを見出したところ、3回の連続した光治療後には、そのうち1293のRNAが若い肌の遺伝子発現レベルに近づいた」というものです。

こうした研究を踏まえ、米国では光治療器を定期的に照射して「エイジングスキンメンテナンス」に使用することが常識となりつつあります。

光治療器のターンオーバーを促進してシミを改善し、肌を若々しくする作用、そしてそれを継続していくことの恩恵は、通常の美容ではあり得なかった「時間が巻き戻る」ということなのです。光治療器が世に出てすでに20年以上の月日が経過しました。それによって、20年前には観察することができなかった、光治療器の照射を長年にわたり継続して行った患者さんの現在の症例を多数見ることができるようになりました。

欧米の学会では光治療器の照射を始めた15年前の写真と、現在の患者さんの写真を比較するような演題が数多く発表されています。

最も顕著だったのが、2013年IMCAS ASIA における米国のDr.マイケル=ゴールドのプレゼンテーションです。

彼はかなり早い時期から皮膚治療にレーザーを取り入れた、いわば米国レーザー医療会の重鎮の一人。彼がプレゼンの中に、37歳の初診時に撮ったある患者さんの写真と彼女が12年間、レーザーと光治療器の照射を続けた49歳の写真を供覧したのです。

明らかに、ハリがあり、テクスチャーが整って透明感が高い、12年前よりもはるかに若々しい肌。レーザー及び光治療機器は、「肌質を改善する」という事実をまさに実証したような写真を目にした会場の医師からは、どよめきと歓声が上がりました。

会場からの「肌質を改善するには、どのメーカーのフォト治療機器が良いのか?」という質問に対するマイケル=ゴールドの答えは、

「光治療器(フォトもしくはIPL)であればどの機器でもよいが、特定の機器を照射し続けるよりも、数多くの違った機器を照射したほうが効果は高い」ということ。

そう!この「数多くの違った機器を照射する」「さまざまな周波数を肌に入れ込む」ことが大きなポイントなのです。

光治療器の場合、レーザー治療器とは違って、同様の目的で作られた機器であっても各社でスペックに大きな違いがあります。また比較的設計が楽な分、工学的な工夫を凝らしやすく、どの機器にもその機器なりの良さがあります。一方で、1機種で肌の中のすべての色素を反応させるのはむしろ不可能なこと。

だからこそ、「数種類のIPL機器をもち、交互に使いまわす。」というのが最適なのです。もちろん一定以上の技術を持った会社の機器を使用し、さらにその機器が定期的にメンテナンスされていることが条件です。

光治療器を照射することで肌を若々しくなる、というのは経験的にわかっていましたが、「皮膚が遺伝子レベルで若返る」ということが実証されてきたことは、非常に意義があると言えるでしょう。

AIの顔認証が逆転する! 時空を超える肌づくり

ちなみに、2018年ダラスのASLMS(米国レーザー医学会)では、10年前の写真と10年間光治療やレーザー治療を行った後の写真をAI判定させると、現在の写真の方が若いという認識をする、という面白い発表をしているドクターもいました。

美容整形は「形状を変えることで、変身願望を叶えるため 時に自分を捨てて別人になるため」の ‟攻め” の美容医療。美容手術や「プチ整形」と言われるヒアルロン酸などフィラーを使用した、形状の改善が主要な目的です。皮膚そのものが若返っているわけではありません。

それに対して、美容レーザーや光治療は「形状は変えずに、肌質を整えるため 自分史上ベストを目指すため」の ‟守り” の美容医療。

レーザーやRFなど機器を用いて治療を行い、それを維持していきます。肌質を改善し、皮膚そのものを若返らせることが主要な目的です。レーザー治療によって、皮膚は時空を超えるのです。

10年単位で光治療を行うことで、10年前よりも若い綺麗な肌になる。美容整形やヒアルロン酸で「若い顔を作ること」とは違い、若かった時の肌に戻ることができる。これが、遺伝子レベルでも確認されてきたことは本当に画期的なことだと思います。

とはいえ、皮膚をDNAレベルから若返らせても、生きている限り骨格や結合組織など様々なところが変化していきます。また、年齢に応じた「オーラ」のようなものもあります。若さを追い求めすぎる「創られた顔」は、逆に不自然なことになってしまう。目指すべきは、年齢の20%若い肌。これがベストな年齢設定だと考えています。

レーザー界のレジェンド、ロックス・アンダソンの予言

2014年4月にアリゾナ州フェニックスで開催されたASLMS米国レーザー医学会におけるハーバード大学のロックス・アンダソン教授の演題が魅力的でした。ロックス・アンダソンといえば、1983年「Selective Photothermolysis(選択的光熱融解理論)」という論文をサイエンス誌にアクセプトさせたことで、現代の医療レーザーの礎を築いたレジェンド。

その演題とは「2025年までに起こりうる、レーザー治療の大きな進化について」。

ロックス・アンダソンが挙げた進化は以下の8つです。
①経験の少ない施術者に対する、よりオートマティカルなレーザー機器が登場する。
②ソフトウェアでプログラミング可能な「ロボットレーザー治療機器」が登場する。
③ホームケアユースのレーザー、IPL、RF、超音波機器の処方が始まる。
④ニキビは本質的な治療が可能になる。皮脂腺をターゲットとした機器が出来る。
⑤レーザーによる入れ墨除去が、瘢痕化することなく確実に即日できるようになる。
⑥有用なライブ顕微鏡が登場する。
⑦病理医師がいない状態でも迅速診断できるマイクロ生検が可能になる。
⑧スマートフォンによる皮膚診断アプリが現在の200から20万になる。

さて、この予言からちょうど半分くらいの2020年における現状はどうでしょうか。

医療機器から家電製品に至るまで、すべての機器はユーザビリティが上がりますので①の進化は当然のことだと思います。

例えば高周波RFを用いたサーマクールFLXなどは、熱計算せずとも機器がそれを計算してくれることになりました。熱計算の点ではより安全に、施術者を選ばないわけです。

とはいえ照射のスキルはもちろんそれだけではありませんが。また、デバイスが「レーザー」となるとまだ難しい状態ですね。

②の「ロボットレーザー治療機器」に関しては、レーザーを治療ばかりではなく、センサーとしても用い、治療が必要な部位だけを同定し、その部位に適切なレーザー光を照射するという点に違いがあります。しかしこちらもまだ実現していません。

③のホームケアユースの機器ですが、これは数年前からトレンドの一つではありました。安全性の問題で、レーザーの家庭用機器はハードルがあったのですが、光、RF、超音波などの他のエネルギーソースが使えるようになりましたので、汎用性が上がりましたね。とはいえ、IPLや超音波機器に関してはまだめぼしいものがありません。

しかしRF美顔器でたるみ引き締めに特化したNEWAリフトプラスなどはとても良いホームケアユース機器です。

NEWAリフトが日本で発売されたのは2014年。エンディメッドメディカル(EndyMed Medical Ltd.)という、2007年に設立されたイスラエルの企業が創り上げたRF機器の家庭版として登場しました。RF(高周波)にはいくつかの方式がありますが、こちらは3DEEP RFという新たな方式を開発採用しています。もちろん医療機関の機器とはパワーは違いますが、ホームケアとしては十分な熱量が入り、短期間のたるみ改善効果は明らかにあります。肌の光レーザーメンテナンスに時間が空いてしまう時や、何かイベントがある時のレスキュー的なお手入れには役立つと思います。

④のニキビについては、まだ開発中です。1700nm前後の波長が皮脂腺に反応することがわかっていますので簡単に機器を作れるのではないかと思われていたのですが、1700nmの波長の透過率を考えると、生体に直接照射してしまうと、皮脂腺までレーザー光が届かないのです。

⑤の刺青は、ピコ秒もしくはそれよりも短い波長のレーザーが完成すれば、可能になると思いましたが…。実際登場したピコ秒レーザーの刺青に対する評判はあまり芳しくないですね。まだまだ発展途上と言えるでしょう。

⑥は超音波診断機器のように、リアルタイムで肌の中が診断できるシステムです。これはマサチューセッツ工科大学工学部教授であるジェームズ・G・フジモト氏が、皮下を見る超音波のレーザーを手がけていますので、実現しています。

⑦の「病理医師が不在でもできるマイクロ生検」は、正常細胞と異常細胞に対する特定の光の透過率の違いによって診断をする機器なのでしょう。こちらも残念ながらまだ登場していません。

⑧のスマートフォンアプリは、今後もより医療の世界にも入ってくるのでしょうね。

一般の方でも活用できるアプリですと、カメラ機能を活用することで、肌理から肌の水分量を解析することによって潤い度を測定したり、シワやシミの量を計測、肌色から透明度の高さをはかり、メラニン量や血色など色味に関わる要因を分析する、あるいは紫外線量の情報を取得できるなど、アプリ開発にしのぎを削っています。また、肌の状態を検知するAIも研究されているようです。

とはいえ、カメラの精度や撮影時の光加減などの要因もあり、肌診断の精度はまだまだ発展途上というところ。あまり細かい数値にこだわらない方が良いでしょう。今の時点では、肌測定のデータを蓄積し、季節、気温、湿度、紫外線量などの外部環境的な要因と合わせて肌の傾向を管理していくことが、肌のケアに対する観察力を養うことになるとは思います。

一般には公開されていませんが、肌の病理的な診断をするための医療アプリも多数登場しています。

ロックス・アンダソンが予言した2025年まであと少し。まだまだ研究の余地はあるものの、レーザー治療を取り巻く研究はまさに日進月歩ですからこれらの予言を達成することも不可能ではないでしょう。

※当サイトのテキスト&画像の無断転載はお断りいたします。引用される場合はクリニックFのクレジット記載をお願いいたします。