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レーザーの歴史

フラクショナルレーザーの王者「マドンナリフト」

「レーザーによるスキンリサーフェシング」という概念が美容医療市場に定着したのは、現在のバリアント社が開発した「フラクセル」の登場によってです。ニキビ跡治療に対する福音であったのみならず、すでに美しい肌を持つ方であっても「皮膚を入れ替え、若返る」その能力に魅了されました。

その後様々なエネルギーデバイスによるいくつものフラクショナルレーザー機器が登場しましたが、その中でも依然揺るぐことなく王者の風格を持った機器が「マドンナリフト」の通称で呼ばれているイタリアDEKA社スマートサイド2です。このマドンナリフトこそがフラクショナルCO₂レーザーの金字塔といっても良いでしょう。

2012年、アメリカ人の国民的イベントであるスーパーボウル。そのハーフタイムショーで登場した歌手マドンナに、全世界が刮目しました。当時53歳であるマドンナの、その肌のツヤやハリにインターネット上で驚きの声が次々と投稿されました。彼女の劇的な若返りの秘密こそがDEKA社の「スマートサイドスクエア」だったのです。そして、このことから「マドンナリフト」の名で世界に広く知られるようになりました。

特に、従来であれば手術が必要であった眼瞼下垂など「まぶた」のたるみに対して照射し、皮膚を収縮させる力の強さを利用して眼瞼挙上するという画期的なアプローチによって、イタリアDEKA社はマドンナリフトと共に、美容医療市場に名を残す躍進を遂げることとなったのです。

日本に導入された当初は、そのアグレッシブさや1週間ほどかかるダウンタイムの大きさに抵抗を示す人が多かったものの、他の機器では替わりが利かないその効果を知った人は、必ずリピートするようになります。今ではマドンナリフトで「年に一度肌の総入れ替え」することをルーティンにし、ダウンタイムを取れる時期を念頭に置いた年間計画をたてて利用される方も徐々に増えていくようになります。

マドンナリフト前夜。フラクショナルレーザー機器の特性の見極め

ここでマドンナリフトが登場する前のフラクショナルレーザー市場を、少しおさらいしましょう。

フラクセルが登場した2004年の米国ダラスで行われた米国レーザー医学会。始まりは、レーザー径を櫛状にすることで、皮膚の再生に関わる表皮基底細胞を温存しよう、というアイディアでした。レーザー光線を分離し、皮膚表面に1cm2あたり約2000個もの直径70μm前後の凝固柱を作るフラクショナルレーザーは、創傷が非常に小さいため炎症が少なく、治癒が早いというメリットがあります。

さらに、確実に真皮まで創傷を作るため、コラーゲン産生量が多く、小じわが改善し、かつ凝固した表皮が再生し新生の皮膚に入れ替わる為、皮膚表面が若々しい状態変化させることを可能としたのです。

この画期的な考え方が、その後10年間のレーザー治療を一気に進化させ、多くのフラクショナル機器が市場に登場しました。

2013年の時点での代表的な機器をざっと挙げてみましょう。

・ソルタメディカル社 フラクセル フラクセル2 フラクセル3DUAL
・サイノシュア社 アファーム アファームマルチプレックス
・ルートロニック社 モザイク eCO2(エコツー)
・パロマ社 スターラックス1540 2970 1540XD
・DEKA社 スマートサイドドット スマートサイドスクエア

こうした機器の多さに対してそれらの性質の差の分かりにくさもあったのでしょう。2013年にはそれぞれの機器間の特性の違いを明確にした学会発表も増えてきました。

図1

1320nmから10.6μmまで数多くの波長をもつ機器が誕生してきましたが、各機器の特性を見極めるポイントは①波長選択②ビームモード進達度およびフォーカス③ビーム系に対する熱変成比率④スキャナの方式 、以上4つに大別されると言って良いでしょう。

図2

フラクショナルレーザー機器は、使用される波長の水に対する吸収率でその機器の特性が変わります。

レーザービームを打ち込んだ時に起こる肌の変化のパターンは①加熱され、細胞活動が活性化される(図オレンジ)②加熱され、蛋白変性がなされ、壊死する(図赤)③加熱され、皮膚が蒸散され、穴が開く(図白)に分かれます。波長選択によって効果が変わるということ、すなわち幾つかの機器を使い分け疾患によって最も適正な波長を選択することが大事だと理解できると思います。

フラクショナルレーザーの元祖であるリライアント社(旧ソルタメディカル社、現バリアント社)が開発した機器を例にとってご説明しましょう。

リライアント社は次々と買収されながらも、オリジナルの確かな技術力は継承されているメーカーです。

フラクセル3DUALは「ミニマムアブレイティブ」と祝える、爪楊枝の先ほどの小さなかさぶたをたくさん作って肌を入れ替える1927nmのツリウムグラスと、タイトニングに役立つ1550nmのエルビウムグラスレーザーの複合機器です。

アブレイティブとノンアブレイティブの中間にあたるツリウムグラスの波長が、アジアンスキンには非常に相性が良く、施術直後の赤みはあるもののダウンタイムが最も少ないことから、この機種を選択する方も多いのです。ターンオーバーを亢進させる効果があり、弱く照射することで肝斑の治療にも適用されます。

フラクセル3DUALで生じた皮下の変化の組織像を見てみると、1550nmの波長で照射した場合と、1927nmの波長で照射した場合では、パワーが同じ20mJであっても、皮下の進達度が全く変わります。蛋白変性はしているけれど、蒸散はしていないこともポイントです。

フラクセルリペアで照射した時の肌の変化はまた違います。

図3

皮下の到達している深さはフラクセル3DUALの場合と同じですが、こちらは「組織の蒸散」が起こります。これは10600nmによる水の吸収度の高さによるものです。つまり、ニキビ痕など深い組織の治療に関しては、CO₂を使用しなければならないということです。

さらに同じCO₂レーザーでほぼ同じパワー設定をしたとしても、異なる機器を肌に照射してみるとどうなるでしょうか。

図4

ビーム径や照射密度がずいぶんと変わります。つまりCO₂レーザー等共通点があっても、ビーム径のフォーカスポイントがどの深さに設定してあるかによって、効果も全く異なるわけです。

このように同じCO₂レーザー機器であっても、その特性は様々です。各社が内蔵するCO₂レーザーの信管の性能や、スキャナの構造によっても、照射野は全く異なったものになります。

こうした、フラクショナルレーザー機器の特性のちがいを見極めて行く中で、まさに「真打登場」といった貫禄で市場に登場したのがDEKA社のフラクショナルCO₂レーザー、「スマートサイド」のシリーズです。

「メスを使わない眼瞼挙上」DEKA社「マドンナリフト」の躍進

様々なフラクショナルレーザーが登場する中でデビューしたイタリアDEKA社の「スマートサイド」シリーズ。この機器による眼瞼を手術なしに挙上させ、上まぶた、下まぶた、そして目頭から目尻まで目周囲全体を若返らせる照射術、そしてNYのDr.Bruce Katzによって名付けられた「マドンナアイリフト」というキャッチーな呼称と相まって、2012年に一躍市場を席巻し、DEKA社は大きな躍進を遂げました。

「スマートサイドドット」の特性は、そのパルス波形が他社のCO₂フラクショナルレーザー機器よりも「強い収縮力を持つ」ということ。
DEKA社が得意とする10600nmのCO₂レーザーを用い、レーザー照射後にできる熱だまりを利用して組織を縮めるのです。

「スマートサイドドット」の発振管はガラス製、それに対して「スマートサイドスクエア」の発振管はRF性で全てコンピューター制御されています」

言ってみれば、アナログレコードとデジタルコンパクトディスクの違いのようなものです。患者さんによっては、ガラス管のスマートサイドの方が仕上がりの良い場合もありますから、使い分けは医師の腕にかかってくるところもまた興味深い点です。このように同じメーカーの機器であっても、発振管一つちがうだけで、似て非なるものとなるのです。

「スマートサイドスクエア」はCO₂レーザーとラジオ波を複合させたフラクショナル機器で唯一空中照射が可能な機器です。空中照射が可能な上、非常に優れたスキャナ機能を持っているため、疾患や部位に影響なく使用できます。また、蒸散能力が高いため、深いニキビ跡や毛穴の様に立体的な構造を治療するのにも、とてもメリットがあります。

その特性を生かすことで眼瞼挙上を行う「マドンナアイリフト」や、「全顔の肌を入れ替える」という「マドンナリフト」の治療法が可能となったのです。

ダウンタイムが1週間程度あるのはデメリットですが、その効果には代えられません。ニキビ跡治療のみならず、眼周囲と全顔を組み合わせて年1~2回の「肌全体の若返り」として行う方が多くいらっしゃいます。

フラクショナルレーザー機器をネクストレベルと押し上げた、「スマートサイドスクエアによる「マドンナリフト」。

多少のダウンタイムはあるものの、その入れ替わりによってつるりとした肌の質感や、まぶたの引き締まりを実感し、リピーターが絶えません。
廉価に安全に目の上の皮膚を収縮し、メスを入れずともたるみを解消するというだけでも、この機器が登場した大きな意義があります。

また、アブレーション(蒸散)能力の高さ、つまり肌の入れ替え能力の高さではマドンナリフトが2020年代に入った現在でもトップを走り続けています。

日本におけるアンチエイジング・レーザー業界のトレンドを象徴し、現在に至るまで業界を牽引している機器であると言えるでしょう。

「リサーフェシング」「タイトニング」「ブライトニング」三位一体のフラクショナルレーザー「halo」デビュー

DAKA社のマドンナリフトがレーザー業界を席巻する中、サイトン社が2013年に開発したのが世界初のハイブリッドフラクショナルレーザー「halo(ヘイロー)」もまた、優れた機器の一つ。端的に言えば、肌を入れ替えるリサーフェシング能力、肌を引き締めるタイトニング能力、色彩含め肌質を明るく入れ替えるブライトニング能力全てを併せ持つのがhaloの魅力です。

サイトン社は米国カルフォルニアパロアルトの非上場レーザーメーカーです。

この機種の特徴は、フラクセル3DUALと同様に二つの波長を組み合わせたこと。そして、1470nm(凝固)と2940nm(蒸散)の二波長のレーザー光を同軸に照射することです。1470nmを利用することで、皮下100-700ミクロンメーターの表皮と真皮に熱刺激を加え、コラーゲンの再生によりタイトニング効果を引き出し、2940nmを利用することで0-100ミクロンメーターの表皮を浅く蒸散させる効果があります。

サイトン社は2940nmのエルビウムヤグレーザーを主に利用した、工学的に優れたスキャナシステムの技術を持っている会社です。それだけにhaloが非常に魅力的である理由はいくつもあります。項目ごとに列挙してみましょう。

○技術面:二つの波長を同軸同時照射する技術
○スペック:1470nm 2940nm ハイブリッド フラクショナル
○効果:タイトニング リフティング リサーフェシング ブライトニング
○ダウンタイム:照射パワーによって1日から5日
○痛み:塗る麻酔により軽減可能 人によっては痛みなし
○機能:細かいパラメータ設定が可能で、より多くの疾患に対応

人の肌において、表皮の「色素」はおおよそ100ミクロンメートル(0.1mm)よりも表層にあります。そして、ほとんどの「テクスチャーダメージ」は、真皮乳頭層よりも表層つまり500ミクロンメートルよりも表層にあります。フラクセル3DUALに利用されているツリウムグラスの1927nmの波長は150ミクロンメートル、そしてエルビウムグラスの1550nmの波長は500-1300ミクロンメートルの深さに到達するものです。

ヘイローに採用されたダイオードによる1470nmの波長の進達率は100-700ミクロンメートル。この波長は、色素とテクスチャーの改善の双方に効果があります。さらに、サイトン社の得意波長であったエルビウムヤグの2940nmの浅いピーリングアブレーションをハイブリッドに同軸照射によって組み合わせることによって、相乗効果を狙ったのです。照射部位の面積をあらかじめ測定し、その部位に合わせて何ジュールのエネルギーを照射すればよいという、面積当たりの総エネルギー量が明確で、工学博士としての視点から見ても非常に効果が理解しやすい機器です。

2014年に日本にも導入されましたが、このhaloの登場を持ってある程度のフラクショナルレーザー機器が出揃ったと考えてよいでしょう。
ピコレーザーにフラクショナル・チップをつけたピコフラクショナルという形の機器が市場に登場しましたが、マドンナリフトやhalo以降、格別に魅力的な機器は未だ登場していないというのが、正直な意見です。

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