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レーザーの歴史

レーザーによる痩身市場の開拓

「Body Contouring(ボディコントゥーリング)」また、「Body Sculpturing(ボディスクラプチャリング)」という言葉は英語圏を始めとした欧州で広く浸透しています。「痩身」そして「減量」ではなく、「(美しく曲線を作るように)体型、輪郭を作る」というようなイメージです。

一方、世界的に見ると日本では痩身医療機器の売り上げや認知が今ひとつ上がりきらないという事実がありました。

これは「美容」というカテゴリーにおいてエステティック市場が成熟している日本ならではの現象かもしれません。「エステティック」とは本来「美学」や「美意識」を意味する言葉ですので、「美しい体を目指す意識」という点では同じでしょう。しかし、日本では「美容術」という概念で独自の発展を遂げているエステティックの範疇でできることと、「痩身医療機器」でできることは扱うことのできる機器の種類やパワーにおいても、実際の結果においても大きく違うことは、もっと一般的に知られていく必要があるでしょう。

また美容整形外科による脂肪吸引や、現在では食事制限と筋肉トレーニングを行うことで痩身を実現させようというスポーツジムの台頭もあります。サプリメント市場による影響もあるでしょう。

エステティックサロン、トレーニングジム、美容整形外科、そしてサプリメント事業・・・こうした場でコントロールされてきた痩身市場でしたが、長寿社会で健康寿命に益々関心がいく世と並行するように、レーザー及びEBMDを開発する企業からも専用の機器が次々にデビューし、その効力を日本でも無視できなくなっていくようになるのです。

「痩身医療機器」の新機軸「クライオ(氷結)」

まず、痩身医療機器に新たな基軸をもたらしたのは米国Zeltiq(ゼルティック)社です。

元は米国海兵隊上がりでサーマクール社の立ち上げにも関わった 「鉄の経営者」Keith Lear Mullowneyga がファウンダーを務め、2005年に設立されたゼルティック社。

その企画力と実行力をもって「クライオ(氷結)」という画期的な技術で一気に市場に躍り出ました。

その機器が、脂肪組織以外の組織にはダメージを与えず、脂肪だけをシャーベット状に冷やすことで余分な脂肪だけを減らす「クルースカルプティング」です。

こうした機器が出る以前、2000年代の初頭までの米国では、主に形成外科や美容外科の領域で「医療的に美しいボディ」を作るための施術が行われてきました。例えば、代表的なものが脂肪吸引です。

脂肪吸引は、脂肪を減らしたい場所に脂肪吸引管(カニューレ)を挿入し、陰圧で吸引、除去していくものでしたが、医療事故の報告も多かったのは、皆さんも記憶にあるのではないでしょうか。

医療ミスと医療事故は似て非なるもの。人為的なミスではなく、通常の医療を行っていても一定の確率で起きてしまうのが医療事故です。

残念ながら、局所麻酔剤や止血剤の過剰投与、アナフィラキシーショックによる心停止、脂肪塞栓などによる血栓症や呼吸不全など、死に至る事故も多くありました。その後、体内式超音波、大外式超音波、レーザーアシスト、ジェット水流によるアシスト、ベイザー超音波などの技術を付加し、事故を防ぐための最大限の努力とともに現代に至っています。

他には、フォスファジディチルコリンやαリポ酸を使用した痩身メソセラピー、炭酸ガスを針で注入するカーボメッド、ゼニカルやサノレックスなど抗肥満薬の内服などの施術が行われてきました。

そんな中登場したのが、「クルースカルプティング」。「クライオ(氷結)」によって脂肪細胞を減少させる方法です。

氷結され、アポトーシスを起こした脂肪細胞は、2~4ヶ月かけて自然な代謝の中で体外へと排出されます。運動では取りにくい下腹部や側腹部の脂肪にアプローチでき、しかも脂肪細胞の数が減少するためリバウンドしにくく、理想のボディラインを実現することができます。

それまでの「機器を用いた痩身」は、エンダモロジーのようなマッサージ吸引機器や、キャビテーションを用いた超音波機器などエステティックの延長といった印象のものばかりでした。

そんな中で「温度を低下させて、脂肪細胞のアポトーシスを図る」というこの驚くべき発想の氷結による脂肪溶解技術は、まさに「切らない脂肪吸引」。大きな衝撃をもって市場に受け入れられたのです。

「冷やす」と「温める」 脂肪へのアプローチが二極化

2010年代に入り、痩身医療機器の分野はさらに大きく飛躍しました。ポイントは「冷やす」と「温める」です。

前述した「クライオ(氷結)」という画期的な発想に基づくゼルティック社のシェアは、米国の痩身医療機器市場で70%という圧倒的なシェアをもつまでになりました。

トレンドはこうして一時「冷やす」に傾きましたが、女性の体に対しての「冷やす」という負担を考えて「温める」機器も多く開発されるようになりました。

「温度を上昇させて、脂肪細胞のアポトーシスを図る」ということで、脂肪組織の温度上昇のためには使われるエネルギーデバイスは、レーザー、RF(ラジオ波)、超音波(キャビテーション)、HIFU(高焦点型超音波)、EMS(電気的筋刺激)、パルス電磁場など様々。

これらの「温める系」機器は、「熱でコラーゲンタンパク質が変化する」という生理学的根拠に基づいています。例えばRFの熱はコラーゲン繊維を縮め、弾性力を強化し、RFの熱運動によってコラーゲンタンパク質を長期間活性化します。

脂肪細胞は加熱されることで代謝高まり、分解が促進し、細胞のサイズが小さくなります。また熱によって毛細血管やリンパ管などの循環機能が改善されることで、セルライトの長期的な改善が行われます。

このような理論に基づき、多くの機器がデビューしていき、2013年頃の痩身医療機器市場はかなり充実したものでした。

そして「氷結」に関してもその後多くの追従機器も出ましたが、やはり実力と安全性を兼ね備えているのは本家ゼルティック社のものです。

ちなみに、大手レーザー企業が開発会社を技術者ごとM&Aすることによって、自社のラインナップに痩身医療機器を取り込むという場面が多く見られたのもこのころです。例えば、ウルトラシェイプは全米第一位のシネロン社、ライポソニックスは全米第二位のソルタメディカル社によって、それぞれ買収されました。

そんな戦国時代的な背景がありながら、現在までも残る痩身医療機器出揃った2010年代前半の代表的な機器を、3つのカテゴリーに分けてあげておきます。

●冷やす

・ゼルティック社:クールスカルプティング
脂肪細胞を一時滴に氷結し、脂肪細胞だけを緩やかなプログラム壊死へと導く機器。下腹部や脇腹の脂肪を取ることに関して確実に結果を出します。当初はアプリケーターが大きいため適応部位が少ないのが難点でしたが、その後細かい部位にもフィットするものが開発されました。体を冷やすため痩せた女性には不向きです。

●温める

・キュテラ社:トゥルースカルプ(truSculpt)
RF(高周波)によるサーマルシェイビングというコンセプトで作られた機器です。スコットという優秀な技術者による自社開発機器ですが、計画から発表までは数年の時間が必要でした。皮下の加熱と、痛みによるノルアドレナリンの血中濃度の上昇が主な作用機序です。ちなみに体痩せのために開発されたこの機器が、数年後の日本で思わぬ形で大ブレイクすることになります。

・BTL社:エクシリス
チェコスロバキアに本社があるBTLによる、超音波とRFを同じ周波数、さらに同軸で照射する技術です。脂肪の排出だけでなく、RFの熱による皮膚の引き締めも期待できます。

・アルマレーザー社:アクセントウルトラ
40.68MHzのradiativeRFと超音波(剪断波)エネルギーが主体の機器です。工学博士でもある社長のZiv Karniの高い開発力があるアルマレーザー社ですが、アクセントウルトラVのデビュー後に中国企業にM&Aされてしまいました。

・シネロン社:ヴェラシェイプII
シネロン社による自社開発機器。elos RF、赤外線、バキューム、マッサージを利用した複合機です。細胞外の水分の移動は可能で、効果はマイルドですが施術直後の痩身感覚はあるでしょう。

●HIFU(焦点式超音波)

・ソルタメディカル社:ライポソニックス
HIFU(High Intensity Focused Ultrasound)つまり、焦点型超音波を皮下1.3㎝に集中させ、急速に温度を上昇させることで脂肪細胞を破壊する機器。一定以上の皮下脂肪の厚みがあることが適応条件で、内出血のリスクがあります。また、効果が高い分破壊力も大きく、痛みが強いのも弱点です。

・シネロンメディカル社:ウルトラシェイプV3
3世代目となるウルトラシェイプV3。これもHIFU(High Intensity Focused Ultrasound)を利用しています。ライポソニックスよりも弱い超音波をパルス状に打ち込む特徴があります。

課題が残る痩身医療機器市場

2010年代中盤にもたくさんの痩身医療機器がデビューしています。

その一つが2014年にBTL社から発表されたヴァンキッシュという焦点式非接触型RFの機器。ヴァンキッシュは「組織の脂肪、皮膚、筋肉の導電率の違いと電気分極性のちがいに注目し、RFを利用して組織選択性に脂肪組織のみを加熱する」という新しいコンセプトの機器。つまり皮膚や筋肉にダメージを与えずに脂肪組織のみを広範囲に破壊します。市場のシェアは依然としてクルースカルプティングに軍配が上がりますが、皮膚に接触しないドーム型の機器であるため体型を選ばずくびれを作ることができる、身体が心地よい程度に温まる、高周波を使用するため痩身の施術で起こりがちな皮膚のたるみもケアができる、など利点から日本でも人気が出ました。のちにより効率的にRFを流すヴァンキッシュMEという上位機種も発売されています。

2016年には1060nm波長のダイオードレーザーによる痩身機器、サイノシュア社の「スカルプシュア」がASLMS米国レーザー医学界で話題となりました。その年のレーザー医学界会長であるロバート・ワイス医師が開発に関わった機器です。
皮下の加熱といえばRFが主導してきましたが、これは近赤外線のレーザー。深達度が高く、熱による脂肪減少効果は確定的です。25分の痛みがない施術で腹囲の脂肪を減少させます。

「レーザー」というエネルギーデバイスを使った痩身医療機器を使うのは楽しみでしたが、考慮しなくてはいけない点もいくつかあります。

一つは「近赤外線を5分以上照射すると、コラーゲン減少と肌の老化を引き起こす」という皮膚科分野の論文による報告。また、欧米人の脂肪にとって効果的である機器が、必ずしもアジア人で良い反応が得られるとは限らないのです。

その他、BTL社からはエクシリスUltraなどのアップグレード機器と、セルライトに特化したセルトーンといった新たな機種が発売され、ゼルティック社からはアプリケーターの大きさが課題であった「クルースカルプティング」に「クールミニ」が登場し、あご下などの小さな領域での施術が可能となりました。

このように、それなりに多くの機器が登場したものの、「革新的」と言えるほどのコンセプトがあるというよりは2010年台前半のバージョンアップが主な時期です。

その中でクリニックFで人気が出たのは「トゥルースカルプ」と「inmode」です。

トゥルースカルプは、キュテラ社が開発したRF(高周波)による部分痩身機器。RFで皮膚深部を45度まで加温し、一部位につき3~4分その温度を持続することで脂肪細胞を効率よく破壊します。実は2012年に日本に登場していた機器ですが、その時点ではそれほど話題になりませんでした。しかし、その後アゴ下や頰にも使える小さなハンドピースが登場したことで、「顔のたるみ治療機」として日本で大ブレイクを果たしたのです。

特に二重アゴなどのフェイスラインのだぶつき、エラ周辺が張っている方に関しては、横顔のキレが圧倒的に良くなるなど、ドラスティックな効果があります。施術を受けている時の感覚は、ちょっと熱い温泉程度。火傷を起こさない安全な温度で均一に熱を入れていくのですが、この均一性が実は高度な特許技術になっています。心地よさに寝てしまう方も多い手軽さと効果に感動し、顔の施術から逆輸入するような形で「トゥルスカボディ」の施術の人気も爆発しました。

もう一つの機器「inmode」は、イスラエル によって開発されたINVASIX社によって開発された、革新的なIPLプラットフォーム。痩身、光治療、脱毛という3つの機能を兼ね備えており、異なる機器を必要としていた悩みや相談に対して1台で対応できるというメリットがあります。痩身のみに特化した医療機器ではありませんが、「Body FX」「Mini FX」というRFとエレクトロポーション(電気穿通法)の相乗効果により、脂肪組織のアポトーシスを促す業界初の機器です。2つ電極に挟まれた組織をバキューム(吸引)し、RFを加えた後にエレクトロポーションを行います。また、同じくinmodeに搭載されている「FORMA PLUS®︎」で丁寧に温め、老廃物を流してゆくことで効果を高めます。

「クライオ(氷結)」という画期的なアイディアや、様々なエネルギーデバイスの台頭を得て、一気に広がった痩身医療機器市場。しかし、この時点での各機器の弱点は、白色脂肪細胞から中性脂肪(トリグリセリド)を溶解するだけであったこと。中性脂肪はそのままですと水に親和性がないため、その後の遊離脂肪酸の体内移動、代謝、消費などには他の化学反応が必要です。そのため想定しなければならないファクターも多く、患者様の体質に合致したものを選ぶ必要があります。

どれも有能な機器ではありますが、真の意味での「美しいボディ」を作るためにはまだ解決できていない問題がありました。それが、「筋肉」へのアプローチです。そのソリューションには2018年まで待つこととなります。

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