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BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

医学の進歩とは

世界の国際学会を回っていると、ひとつ改めて気付くことがあります。

「医学の進歩は、医師同士の議論によって進むのだな」

と。

新しい機器や薬が出たときに、その英文論文を根拠にご紹介(売り込み?)に来て下さる企業の方がよくいらっしゃいますが、研究者として医療に従事していた人間としては、それを頭から信じることは出来ません。

統計のマジックや、実験のプロトコールの立て方によって、いくらでも新しい機器や薬剤に有利な研究結果を提示することが出来るからです。

優位差を出すための「手の内」は、良く知っています(笑)し、簡単には騙されない自信もあります。

まず、その内容やプロジェクト、商材に自分のアンテナが引っかかるかどうか、ピンと来るかどうかを見極めた後、次に僕が行うことは、その種の関連論文で、対抗論文が出ていないか、そして、その数の多さをチェックすることなのです。

世界各国で新しい薬や治療方法は、学会の発表か、論文によって医学誌に発表されます。

この発表や論文が優れた、そして画期的であればあるほど、多くの施設で「追試」なるものが行われます。

同業者が本当にその方法で正しいのか、見極めるのです。

皆が興味のある分野、注目される分野だから、確認をしようとするわけですね。

ある理論が提示され、それが正しいとサポートする論文と、間違いを指摘する反論論文。

過去の経験から、この論文の数が多ければ多いほど、その理論が皆に注目を浴びていて、しかも効果的だと思われる場合が多いと言えます。

今では、西洋医学は万能のように思われていますが、顕微鏡と抗生物質が開発された時を本格的な西洋医学の歴史の始まりと考えると、その歴史は100年もありません。

世界初の抗生物質が発見されたのは、1929年。写真のイギリス人医学者アレクサンダー・フレミングによってでした。(画像はウィキからお借りしました。)

ブドウ球菌の培養実験中に、ブドウ球菌の生育が阻止される領域が生じる現象を発見したフレミング。そこにアオカビが生じていたことから、のちにアオカビの学名(Penicillin Notatum)にちなんでペニシリンが誕生したことは、有名ですよね。

西洋医学はその後飛躍的に発展していきますが、その中で生まれたのが、新しい発想の医療=「アンチエイジング医療」です。

その歴史はまだまだ浅く、アンチエイジングの分野は、そもそも論文の数自体が少ないですし、さらに現在の新しいサプリメントや治療が、30年後にどういった効果、そして作用/副作用を及ぼすかは、実際には現在まだまだ人体実験中のものも多くあるのだと思います。

新しい治療法や薬に出会った時には、そうした状況を前提に、医師は自分の持つ医学知識に照らし合わせて、理が通っているかどうかを考え、一人ひとりの患者さんにとって、利と不利を判断し、本当に必要か否かを毎回立ち止まって考えることが大事だと思うのです。

たとえば、FDAでの認可及び評価が目まぐるしく変化している「ハイドロキノン」。

美白剤としての効果は誰もが認めているものですが、白斑症をはじめとしたその他の危険性を提示する論文が数多く提出されています。

クリニックFでは、メニューに載せてこそいませんが、希望の患者さんに対して裏メニューとしては存在しています。

そして、「プラセンタ点滴

効能を考えるとメリットも多く、完全否定するのはもったいないと思うのですが、感染の可能性を考えるとメニューには載せられない。

ただし、患者さん個人で使用する量を決めた後、仕入の薬剤を100本程度を一括購入してロットを連番で揃え、連続したロットを一人の人に使ってもらえれば感染のリスクは格段に下がるので、希望者にはその方法を提案しています。

最近国内の医師の間でも広まり始めた、ライナス・ポーリング博士の「メガビタミンC療法

これも1965年当時から、反論が沢山出て、何度も葬り去られた理論ですが、しばらくすると、不死鳥のように議論が湧き上がってきます。実際に効能を実感する患者さんや医師がいるという証拠でしょう。

栄養学的に体内のビタミンC必要量を考慮すると、ここまで大量のビタミンCは必要ありません。日々の食事に気をつけたり、足りない場合にもサプリメントの量で十分だと思います。

しかし、メガビタミン療法は、

「若く健康な人が、それを維持するために必要な栄養としてのビタミンC濃度」

の多寡や必要性を議論しているのではないのです。

35歳を超えると、活性酸素を除去するために必要な、SOD活性が急激に低下しますので、老化や癌の助長因子である活性酸素を除去できなくなります。

そこで、ビタミンCの持つ抗酸化作用をSODの代わりに使用する。ここが、メガビタミン療法のポイントであり、ここをまず理解できないと、とんちんかんな議論になってしまうのです。

ビタミンCは3時間でほぼすべて尿から排出されますが、その3時間の間に活性酸素を「キレート(=排出・除去)」することを目的に、あの量のビタミンCが集中的に必要となる。

ここでビタミンCに期待される役割は、「掃除やさん」。

掃除が終わればゴミと一緒に一度出て行って欲しい=そのままビタミンCが体内に留まっていればそれは意味がない、ということがこれで想像つくかと思います。

ビタミンCの特性である

「3時間でほぼすべてが尿から排出されてしまう」

というところに目をつけたところが、云わばこの療法第二のポイントであり、これを逆手に利用している点が画期的なわけです。

流行の言葉で言えばいわゆる「デトックス(解毒)」をその3時間で行ってくれているのと一緒ですから、仕事が終わった“必殺仕事人”には、速やかに去っていって欲しい・・・=むしろ時間と共に体外に出てもらった方が良い、ということが言える。

この作用のために使用することを考えると、若返りを含めた美容目的や抗老化、疲労や糖化、ストレスなどによって進んでしまった酸化の抑制、さらに抗癌作用を期待する場合は、必ずあの量を「点滴」で導入することが必要となります。

サプリメントなどの経口剤で、口から取り入れたビタミンCでは、どんなに大量に摂取しても、「解毒」に必要な血中濃度には上がらないのです。

ビタミンCについての、今までと違った新たな効能を生かすために、必要濃度と、投与方法が違うということなのです。

さらに、最近流行の化粧品の素材であり、コラーゲンやエラスチンを増やす作用のある細胞増殖因子=「グロースファクター」(EGF FGF IGF-1など)。

これらは基礎医学論文、つまり動物実験やシャーレ上の細胞では、確実に効果が証明された素材です。これが臨床医学で、実際の体内に入れたときにどうなるかはグレーなのではないでしょうか。

女性ホルモンや、男性ホルモンを注射する、ホルモン補填療法やドーピング療法も同じだと思いますが、リスクの見極めがまだ成されていない。女性ホルモンで言えば、閉経後のエストロゲン療法などでは乳がんのリスクも上がります。

増殖系の蛋白を皮下に入れることには、癌化を引き起こす可能性を完全に否定できず、自分としてはまだ抵抗があります。

勤務医だった時代も慎重だった方だと思いますが、開業し自分自身が患者さんすべての命と責任を背負っていると思うと、さらに輪をかけて慎重になりますよね。

いつまで経っても、日々勉強です。


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