先日のブログ「主人公の気持ちを答えなさい」に補足すると、つまり僕を含め医者は医学部を出たあと、ある勘違いを訂正されないまま医師としてのキャリアを積んでしまうことが時にある、ということではないかと思います。
それは何かと言えば、
「医者の務めとは病気を治すことである」
ということにフォーカスしすぎて、病気に苦しむ患者さん・・・という「人」ではなく、その患者さんが抱える「病気」自体に興味を抱いてしまう、ということが往々にしてあるということです。
炎症を治療し、腫瘍があれば取ることを考え、痛みがあれば緩和する手段を講じ、見たことのない異型の細胞が見つかればどういう手を打つべきものかと空を仰ぎ、悩む。大学病院にいた頃は、それこそが医師の仕事であり、その仕事が完璧にできることを目指していたと思います。
そして「病気」に「気持ち」はない。
しかし開業し、しかも病気を専門に扱う病院ではなく健康な人を対象にした病院で仕事を始めたときに初めて気付きました。
医者とは「病気」ではなく「人」を扱う仕事であることを。病気ではなく人に興味を持たなければ、この仕事は続けていけないことを。その患者さんがふだんどんな生活を送り、どんなことを考え、今どんな気持ちでいるのか。それがわからないと必ず壁にぶつかるのです。
こうして文章にしてみれば、至極当たり前で「何を言ってるんだ今更」というかんじですが、これを頭でなく体で理解するまでに時間がかかりました。
医者は専門職であり、常にプロでなければならないと思う気持ちに変わりはありませんが、病気の向こうにある「人」に視線を常に向けていけば、医者と患者さんとの間に病気を超えた信頼関係が生まれ、その人が病気であってもなくても一生診ていくことができる。
これからの時代に必要なことではないかと思います。