このブログで何度か書いていますが、僕は痛みの治療に興味があって、研修の初期に痛みの専門家である麻酔科を選択しました。
6年間で専門医を取得したのちに、レーザー皮膚科に転科して、10年間がたちました。
現在も日本ペインクリニック学会認定医の資格を持っていますが、初期に麻酔科を選択して良かったと思うのは、痛みに関する知識の深さだとおもいます。
痛みという概念と知識を、研究題目として個別に深く掘り下げることは、麻酔科以外の選択ではできなかったと思いますので、この知識は僕の財産の1つですね。
僕が所属している日本ペインクリニック学会からは定期的に学会誌が送られてきます。この雑誌は1995年に僕が最初に書いた医学論文が(1996年掲載)掲載された医学雑誌でもあります。
当時、病名の再編成が行われた「CRPS(複合性局所性疼痛症候群)」という病気の日本での第1報の報告をしたのです。
僕の指導教官の着眼点がとてもよかったのですよね。
今回送られてきた号の総説に「痛みの機能的画像診断」の最新知見の話が載っていて、とても興味深く読みました。
不快な感覚・情動を伴う主観的体験である痛みは人によってとらえ方が違うので、客観的に評価することは非常に難しく、これが痛みの治療を複雑・困難にしてきた原因の一つでもあります。
しかしながら近年、
ポジトロン放出断層撮影(PET)
機能的核磁気共鳴画像(fMRI)
核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)
などの画像医学の進歩によって、痛みを感じる際に脳内のどの部位が活性化されるのか、さまざまな知見が明らかになって、痛みを客観的に評価できるようになってきたのです。
さらに、上記の機能的画像診断法に加えて、脳内の形態を立体的に診断する3D-MRIを応用した
voxel-based morphometry (VBM)
などによって、脳内組織の容積を直接測定し、慢性痛などの患者の場合、どのような脳内変化があるのかを調べられるようになりました。
これら脳の機能的、形態的画像診断法は、痛みに対する画期的な客観的判断材料になります。現在は高額医療検査だと思いますが、徐々にコストが落ちてくれば、治療の選択肢も広がるのではないかと、とても期待しています。
ところで、脳の動きが客観的に診断できるようになったことで、興味深い事がわかってきました。
それは、「心の痛み」や、「他者の痛み」を感じると、実際に肉体的な痛みを感じた場合と同じような変化が大脳辺縁系(旧脳)で起こるのです。
サイエンス誌(2003年)にも掲載されていますが、仲間はずれやいじめなどの「社会的な疎外(Social exclusion)」を受けている時には、身体的な痛みと同様な脳領域が活性化されるのです。
これは痛みが「感覚」ではなく、恐怖、嫌悪、怒りなどと同じようなネガティブな「感情」でもあるのだということを表しています。
「心の痛み」が実際の痛みに近い感覚があるのは経験的にわかっていたつもりですが、これが脳機能画像診断機器で証明されるなんて、興味深くありませんか?
今回執筆している本では、こんな話題についても触れています。