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BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

機械で病院を選ぶ時代

みなさんは、病院を選ぶとき、何で選びますか?

ほんの10年前までだったら、その選択基準は 病院までのアクセス、規模や設備、そして医師の評判や実力であったのではないでしょうか。

特に医師の実力に関しては、医師・患者さんそれぞれに意識したり、こだわりがあったりするところだったと思います。

外科医の場合は、手術能力。

内科医の場合は、診断能力や優しさ。親しみやすさ。

あの先生は肝臓がんの名医だとか、今まで誰も見つけてくれなかった病気を発見してくれたのだとか、患者さんに親切で温かいとか、そういったファクターが病院の最も大きく重要な選択基準のひとつだったと思うのです。

医師はどこまでも専門家であり、職人であることを求められ、さらに人間力も求められてきました。

しかしながら、高度工学技術が医療の世界に入ってきてから、こうした医師の努力と実力、持って生まれた才能だけでは覆せない、もうひとつの基準が徐々に出来上りつつあるのではないかと思います。

それはその病院にどんな機器が揃っているのか。

そして、それらを正確に扱い解析できる医師であるのかどうか。

保険診療であれば、放射線科の抗がん治療器やSPECTやPETのような診断装置。

循環器科の心臓ペースメーカーや、人工補助心臓。

産科であれば、4Dエコー機器。

眼科であればイントラレーシック機器・・・などなど。

それぞれ数百万から数億円の投資が必要な医療機器ばかりなのですが、これだけ進歩が著しいと、

「医師の腕の違いが、機器の違いを越えられない。」

または

「優秀な医師でも、その機器が勤務先に導入されていないため、病院自体が患者から選ばれない。」

はてまた

「その機器を操作する環境に恵まれない為、操作をマスターできず最新の治療に遅れをとってしまう」

・・・といった事例がどうしても出てくるのです。

医者が経営者も兼ねる、病院という特殊な組織でこれは、時に悩ましいことではないでしょうか。

こと、自由診療の領域ではこの傾向が、じわじわとですが、顕著に見られるようになってきていると思います。

先日治療後に、とある患者さんと世間話をしていたら、その人が興味深いことを言っていました。

その方はお子さんを妊娠中、最初は小さなクリニックに通われていたのだそうです。

仮にこのクリニックをAクリニックとしましょう。

Aクリニックはこぢんまりとしていて分娩設備もないため、やがて妊娠後期になり、主治医の先生が懇意にしている、産科では大病院として有名で医師の知名度も非常に高い、B病院に転院することとなった。

さすがにこの世界では有名なB病院。設備もスタッフも素晴らしく、本当に良くして頂いた。

でもひとつ大きな違いがあった。

Aクリニックにはあった4Dエコーが、B病院にはない。

(ちなみに4Dエコーとは、いわゆる三次元(3D)の立体視画像を、さらにもうひとつの次元であるD(ディメンション)=すなわち時間経過を含めて見ることができる=動画で見ることができる というものです。

最新のエコー装置では、お腹の中の赤ちゃんの成長の度合い、手や指、足の裏などが立体的に見えたり、表情などを動画で見ることができます。起きているのかどうかも表情でわかるし、時に笑顔も見られたりするのです)

自分は検診の度に4Dエコーに映る赤ちゃんを見るのと、帰りがけにその写真をもらえるのをなによりもの楽しみにしていた。

検診の費用は決して安くないし、待ち時間もいつも長かったけれど、それを見るのが楽しみで楽しみで毎回きちんと通っていた。

マタニティブルーや、妊娠中のキツイ仕事も、その写真を見ると励まされ乗り越えることができた。

なのに、B病院にはそれがない。

大きな楽しみがひとつ減ってしまった。

B病院がいくら有名な大病院だとしても、

いくら知名度のある先生がいるとしても、

出来ることならそのままAクリニックに通い、Aクリニックで産みたかった。

・・・そう言うのです。

時代はほんとに変わったのだな、と僕はその話を聞いて思いました。

どんな機器がその病院にあるのか。そしてその機械からどんな感動とメリットを引き出せるのか。これに患者がこだわり、それを元に「患者が病院を選ぶ」。

これは10年前にはほとんど聞くことのなかった話です。

僕の専門であるアンチエイジング領域、美容皮膚医療では、しかしこの傾向はすでに数年前から見られていました。

サーマクールやフラクセル、アファーム、タイタン、パール・・・など、治療を受けたい「機械」がまず患者さん側に明確にあって、その機械がある病院であることを条件に、病院を探したり検索する患者さんが出てきたのです。

そして、もちろんその中から、お目当ての機械を使って確実に治療できる

「名器を使いこなす能力のある医師」

を更に絞り込んでいく。

いくら腕のいいピアニストでも、ピアノがない場所でその腕を披露することはできない。あるいは、ストラディヴァリウスのように、この名器の極上の音色を聴きたいから、そこから最高のパフォーマンスを引き出すことのできる、このヴァイオリニストのコンサートに行く。

そんなかんじでしょうか。

以前ならこういうことはなかった。患者さんはその病院の評判や悩んでいる疾患に応じて病院を選ばれていました。

雑誌やTV、ネット内で評判の病院だから。

毛穴治療で定評のある病院だから。

たるみを改善したい、

シミを改善したい、

肝斑やにきびを改善したい

その設備がある病院だから・・・etc。

そのように選択し訪れる病院では、実際の治療法はあくまで医者・病院まかせであり、どんなツールを使うかまでを患者さんが指定することはなかった。

それが時代と共に変わって来た。

患者さんの情報レベルや病院に要求するレベルが上がってきたことと技術革新がシンクロし、「レーザー医療」という機器そのものにこだわり、特化した医療が確立され、その認知度とその分野の専門医であることの重要度が、急速に高まってきたのです。

治療をするためのレーザー機器は波長ごとに機器が必要なので数多くありますが、このハイテクのレーザー皮膚科の世界で、医者にとってのレーザー機器は、F1パイロット(レーサー)にとってのマシンみたいなもの。

マシンの性能差が僅差であれば、腕でカバーできる場合もありますが、挽回できない格差というものも確実に存在します。

アイルトン・セナやミハエル・シューマッハーがいくら優秀でも、マシンにある程度のポテンシャルがなければF1の世界で勝てないように、いくら優秀な医師でも、波長のぴったり合うレーザー/光治療器がなければ、この世界では厳密な意味での最適な治療法は導き出せません。

Qスイッチレーザーやフォトフェイシャルで治療できるレベルと、フラクセル、アファーム、eCO2などのフラクショナルレーザーで治療できるレベルには圧倒的に乖離があります。

本来であれば、こうした最新鋭のレーザー機器を大学病院に配備し、医師をトレーニングすることができれば、もともと器用な日本人医師ですから、日本の美容皮膚レーザー医療の技術は格段に上がるのでしょう。

しかしながら、これができない大きなハードルがひとつあるのです。

それは「厚生労働省」の新規機器の認可の問題です。

毎年のように米国をはじめとして、新しいレーザー機器などが開発されていますが、この機器が日本の厚労省で認可されるのには最低でも数年の時間と、検査のための相当の額のお金がかかります。

これは国民の生命を守るためには当然のことで、慎重な姿勢をとらざるを得ないのはよくわかります。けれど、FDA(米国の厚生労働省に相当する機関)などの認可は、日本に比べると遥かに早く、ことレーザーの分野では技術革新が速すぎて、日本で数年かかる厚労省の認可を待っていると、その間にまた別の新しいコンセプトのレーザーがデビューしてしまう。

厚労省の認可のないものは、文科省下の大学病院に入れることはできません。ですから最新のレーザーは、日本の大学病院には配備できないのです。

一方で、僕たち開業医は自分の医師免許を使って、レーザーを個人輸入するという手段で最新のレーザーにアクセスすることができます。

しかし、個人輸入するわけですから、所有権を他に移すことはできず、リースもかけられません。

さらに技術革新のすさまじいレーザー機器は、税法上の機器としての耐用年数は10年にされているにもかかわらず、実際に使用できる期間は3年余りと、償却年数に大きくズレがあります。

これが、レーザー医療開業医の経営状態を徐々に悪化させてゆく、トラップなのです。

クリニックFには、ニューヨークで最も有名なレーザークリニックとほぼ同じレーザー機器のラインナップがあることは、以前のブログでもお話ししたのですが、現在の機器を選択するのは、長い年月がかかりました。

僕は

「クリニックFで治療できなかった患者さんは、NYに行っても駄目」

・・・というくらいのレベルを維持しようという意気込みで、このクリニックFをやってきました。そのためにも、たとえ前年の利益が全部ぶっ飛んでも、「治療に必要な」最新のレーザーだけは、必ず購入すると決めています。

さて、こんな自由診療の現場での、医療全体を見れば「小さな」ムーヴメントが、果たして保険診療の臨床現場にも波及していくのか否か。

これまでの医者は“腕の良い職人”そして“良い人”であれば、“良い医者”だと言われていました。

病院は、そんな良い医師をどれだけ集めることができるか。患者さんからのアクセスをどれくらい確保できるか。ベッド数、科目数、臨床データの数などを看板に掲げてきました。

しかし、これからの時代、それだけでは患者から選択されないようになる。

多くの情報を収集する能力。

その情報群から必要な情報だけを選択する能力。

最新の機器に対する目利きがいて、それらを備え、操る能力。

加えると、医師にとってはその環境に身を置く嗅覚と先見性。

こうしたものを常に備え、先を読む重要性に気付くことの出来る医師と病院が、これからの日本の医療を変えていくことになるのではないでしょうか。


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