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BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

「エンジニアリング」と「リバース・エンジニアリング」 戦闘機ミグとブラックジャック

おはようございます。

今日は3月27日水曜日。クリニックFの診療日です。

今日は新機器開発の話。

少々長くなってしまいましたが、よろしかったらおつきあいください。

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何かの工学機器を開発することを「エンジニアリング」と言いますが、これは科学的なノウハウを駆使して機器の部品の一部を組み上げたり、機器全体を作り上げることですよね。

レーザー光治療器も、「エンジニアリング」するためには、巨額な費用がかかります。

全く新たな機器を一からつくるとしたら、少なく見積もって数十億円。

この金額を使ってレーザーを開発できる体力のあるレーザー会社が、特にリーマンショック以後のアメリカにはありません。

こうした背景もあってここ数年は新たな技術開発が出来ていないので、新たな機器の発表をするために行われるのが、資金力を持つ会社が技術を持った会社を買収すること。

先日のサイノシュア社によるパロマ社の買収もそうでしたし、サーマクールやフラクセルをつくっているソルタメディカル社はその資金力で、数多くの技術を持つ小さな新興レーザー企業を買収し、機器のラインナップを増やすということをしています。

2008年 ボストンにあるサイノシュア社本社にて

こちらがソルタメディカル社が購入した新興レーザーメーカー。

このようにWebsiteにも買収したブランドが併記されています。

オリジナルの技術が買われてしまうのはちょっとかわいそうな気もしますが、時代の流れなのでしょうね。

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そして、もうひとつの手段が「リバース・エンジニアリング」。

これは他社が作り上げた機器を分解し、それらの設計や技術を解析して、機器を作り上げることです。

既に完成した市場に特許を回避しながら追従機をつくる訳ですから、より安いコストで廉価な機器をつくることが出来ます。

僕は医師であると共に工学者でありたいと思い、現在工学の勉強をしています。

新しい技術を開発した人や企業の努力に敬意を表したいと思っていますので、なるべくオリジナルの技術を開発した会社から機器を購入する様にしています。

世界にはレーザー技術の新たな開発が得意な地域が3カ所あると思っています。

それは大学などの産学協同の開発地域。

○1つ目は、アメリカ・ボストン周辺。

ロックス・アンダソン教授が率いるハーバード大学ウェルマン光医学研究所が医療レーザー機器をつくってきましたので、周りのキャンデラ社、パロマ社、サイノシュア社などが良い機器を開発してきました。

○2つ目は、やはりアメリカ。カルフォルニアです。

カルフォルニア州だけを切り出して国としてカウントしても、ここは世界第8位のGDPを誇る経済地域。UCバークレー、スタンフォード、カルフォルニア工科大学、ベックマン光医学研究所などの理論とアイディアを、周りのソルタメディカル社、キュテラ社、サイトン社などが具現化するのです。

○3つ目は、この業界をご存じない方には意外かもしれませんが、イスラエルです。

イスラエルは元々軍事産業が得意で、レーザーの開発などはお手の物です。さらに、人口比率では博士号(PhD)を持った人が世界で最も多いのです。

ルミナス社、シネロン社、最近興隆しているアルマレーザー社などが挙がりますが、例えばフォトフェイシャル(光治療)なども、元々は戦闘地域ごとに塗り替えが必要な戦闘機の塗装をはがすために開発された技術が応用されたと聞いています。

2004年 テキサスの米国レーザー医学会(ASLMS)にて

こちらは世界で初めてフォトフェイシャルを制作したシモン・エックハウス博士。彼もイスラエル人です。

本来であれば、こうした技術開発は日本が最も得意な分野のはず。

しかしながら、厚生労働省の認可など様々な基準が厳しく、日本では新規レーザー医療機器の開発が難しいのです。

以前も韓国のレーザーメーカーを訪問した時に、

「日本の厚生労働省のおかげで、私たちはレーザーの開発が出来ている」

と言われ、複雑な思いをしたことがあります。

日本の国益にも反しますので、是非とも改善をお願いしてゆきたいところです。

「エンジニアリング」をする企業と、「リバース・エンジニアリング」をする企業との関係は、新薬を作り上げる製薬会社と、特許が切れた有効成分を利用するジェネリック製品との関係に似ていますよね。

ちなみに、TTPによってジェネリック医薬品は危機に陥ると予想されています。

米国は世界最大の知財大国(年9.6兆円規模)であり、ジェネリック製剤に対して新たな治験を要求するなど、当然の様に先発企業の権利強化を要求すると予想されるからです。

そうなると、薬価が上がりますよね。

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「リバース・エンジニアリング」は、軍事産業では当たり前の様に行われていたことでした。

第二次世界大戦中の日本は取り返しのつかない軍事戦略的なミスを繰り返しましたが、当初は戦術レベルでは優位に立っていました。

当時世界最高の技術を持っていた日本の零戦が開発されていたからです。

しかしながら、零戦がアメリカ軍に無傷で捕獲され分解解析されたことで、戦中のわずか数年の間に航空技術が逆転し、空中戦において優位に立たれてしまったことが敗戦理由の一つであったとも言われています。

また、1966年にイラク空軍大佐のムニル・レドファが自機のミグ21に乗って、自国のレーダー網をかいくぐり、敵国のイスラエルに亡命するという事件がおきました。

この亡命話は、イスラエル軍の工作員らが何年もの期間をかけてレドファを懐柔し、周到に準備した結果成功しましたが、結果としてムニル・レドファは100万ドルの報酬を個人的に得た代わりに、祖国を売ってしまったことになりました。

なぜなら、この無傷で手に入れたミグの技術が、短期間に「リバースエンジニアリング」されて、イスラエルは空中戦に置いて優位に立ち、67年の第三次中東戦争で勝利を収めたのです。

この話は手塚治虫の漫画、ブラックジャックの中にもデフォルメして引用されていたので記憶があります。

中学生ぐらいの時に読んだので記憶が定かではないのですが、確か病気の娘を助けるために、ミグをもって日本に亡命したロシア人がブラックジャックを訪れます。ブラックジャックの手術は成功に終わります。

報酬としてミグを要求したブラックジャックに対して、娘の手術の成功を確認した後、パイロットは自分の責任を果たさなければと、ちょっと外に出ると言い残し、戦闘機に戻り、そこで戦闘機とともに自爆して果てるのです。

「リバースエンジニアリング」の危険性と、自分の娘を救うためにまだ若い父の選択した道。

考えさせられましたね。

 


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