休診日にまた朝から六本木ヒルズに向かいました。
目的はこちら。
そう、NYのThe Metropolitan Opera 通称METのLIVE VIEWING 2014-15が現在期間限定で上映されているのです。
この日は今期の二作目。モーツァルトの名作であり彼の真骨頂でもある「フィガロの結婚」が予定されていました。
今回のライブ・ビューイング(LV)で案内役を務めるのは、今期のパンフレットで表紙になっているルネ・フレミング。
舞台で見る彼女とは違って、スクリーンの中CNNのキャスターのように役者たちにインタビューをする姿がおもしろかったです。
彼女は6作目の「メリー・ウィドウ」でハンナを演じることになっています。
そして今回もこの豪華なメンバーをご覧ください。
◇指揮:ジェイムズ・レヴァイン
◇演出:リチャード・エア
◇出演:フィガロ・・・イルダール・アブドラザコフ(バスバリトン)
伯爵・・・ペーター・マッテイ(バリトン)
スザンナ・・・マルリース・ペーターセン(ソプラノ)
伯爵夫人・・・アマンダ・マジェスキー(ソプラノ)
ケルビーノ・・・イザベル・レナード(メゾソプラノ)
僕はジェイムズ・レヴァインがタクトを振るオペラをもうすでに何度も観ていますが、もちろん生で見る圧倒的な空気や熱、音をここでは味わえないものの、LVのカメラワークならではの演出で今回も最初から惹き込まれました。
車椅子のレヴァインの表情のひとつひとつをああした大画面のアップで見てしまうと、すでにもう40年以上も第一線でこの世界を牽引してきた巨匠のタクトを、ああ、あと何度我々は見ることができるのだろうと、切なさに似た気持ちがこみ上げてきます。
LVの撮影監督は、元はTV監督だったギャリー・ハルヴァーソン。パンフレットに書いてあったのですが、このLVを手掛けるにあたってオリンピック中継を徹底的に研究したのだとか。
道理で臨場感があるわけです。
さて、この日本でも有名なフィガロですが、今回は演出がいつもと異なります。舞台設定がより現代になっているのです。
元々のオリジナルはフランス革命前夜とも言える時代に設定されていますが、今回は第二次世界大戦前夜。
鬼才リチャード・エアのオリジナリティ溢れる舞台は、セットや照明の使い方もおもしろかったですが、テンポがとにかく良かったですね。
欲を言えば、時代が変わると衣装も変わりますしセットや小道具も変わりますので、僕自身はオリジナルの時代設定の方がやっぱり好きかもしれません。
もうひとつLVで観て良かったと思ったことがあります。
日本語の字幕と画面のリンク感が素晴らしかった。
生の舞台を観るとき、海外では目の前の英語の字幕と、舞台を縦横無尽に動き回る声楽家を追わなければなりません。日本で見るときは日本語の字幕がつくでしょうが、これを追いながら舞台を観るのは結構難しいことです。
それが映画感覚で、様々な登場人物の心情に合わせたカメラワークと共にスクリーンの中展開されると、一言一言噛み締めながらすんなりと歌詞を飲み込めてしまう。DVDで観るのとはまた迫力も違うのですよね。
そうして改めて思ったことは、ボーマルシェの戯曲に基づき、これを台本に落とし込んだイタリア人台本作家ロレンツォ・ダ・ポンテの偉大さです。
フィガロの結婚、ドン・ジョヴァンニ、コジ・ファン・トゥッテでダ・ポンテはモーツァルトと組んでいますが、彼なくしてこれらの名作は生まれなかったことが本当によく理解できるのです。
そして、今回のキャスト。
フィガロ役を務めたイルダール・アブドラザコフ。伯爵役のペーター・マッテイ。
彼らはフィガロそのもの、伯爵そのものでした。
アブドラザコフが登場するだけで場が明るくなり、マッティが場を引き締める。
見事な存在感であっぱれでしたよ。
スザンナ役のマルリース・ペーターセン。
スザンナは準主役ですが、フィガロの中では本当に難しい役どころだと思います。
周りの役者との調整が常に求められ、出過ぎず引っ込み過ぎず、技術と華は求められますが、他の役者を食いすぎてもいけない。舞台の場面場面をつながないといけない。
そういう意味で非常にバランス感覚のある役者さんでしたね。
伯爵夫人を務めたアマンダ・マジェスキー。クール・ビューティでこれも非常にはまり役。最初から難しいアリアを求められますが、歌いきっていました。
舞台でもうひとりの主役 ケルビーノ。イザベル・レナード。彼女はフィガロと同じくらい人気者でしょうね。ケルビーノ役を何度も演じているというのは心から納得。素晴らしかったです。
この後彼女はセヴィリャの理髪師でロジーナを演じるそうです。
冒頭から華やかで洒脱なモーツァルトの有名すぎる曲に乗って繰り広げられるストーリー。
そして、喜劇の中、随所に盛り込まれた普遍的な真実。
今回も本当に楽しませて頂きました。