TOP
藤本院長のブログ(新国際学会周遊記)

東京二期会オペラ 「ファウストの劫罰」

昨日は診療後、上野の東京文化会館ホールで行われた東京ニ期会オペラ「ファウストの劫罰」を観に行きました。

006

クリニックFに定期的にいらしてくださる音楽関係者の方からお勧めいただいたのです。

ゲーテの「ファウスト」は、とても有名な物語ですよね。

「クラシック音楽」とは、「主に250年前から150年前にドイツで作られた作風」と定義しても良いと思うのですが、特に19世紀のロマン派の作曲家にとって、ドイツの文豪ゲーテは特別な存在でした。

フランツ•シューベルトの「魔王」や「野ばら」はゲーテの詩の歌曲ですし、ベートーヴェンの「エグモント」はゲーテの作品の劇音楽です。

そんなゲーテを訪ねて僕も旅したことがあります。2009年のヨーロッパ皮膚科学会(EADV)は、ドイツのベルリンで開催されましたので、僕は学会発表の後、アウトバーンを南下してゲーテゆかりの地であるライプツィヒを訪ねました。ゲーテには、ライプツィヒ大学で法学を学んでいた時期があったのです。

ライプツィヒには、世界最古の民間オーケストラであるゲヴァントハウスがあり、メンデルスゾーンが史上初めてのプロの指揮者(指揮者として生計を立てた)として活躍したとても文化度の高い地域です。

ゲーテも住んでいたこの街の中心部には、アウエルバッハ・ケラーという、ゲーテのファウストの中に実名で登場する地下酒場もあるのです。ファウストがまず最初にメフィストフェレースに連れてゆかれ、庶民の歌を聴き、さらにメフィストフェレースが蚤の歌を披露した場所ですが、そこで食事をした時は感無量でしたよ。

この小説、僕も医学生の時に読みました。現在までにさまざまな翻訳や、手塚治虫さんの漫画にまで引用されていますが、本当に読めば読むほど奥の深い含蓄のあるストーリーですよね。

老研究者のファウスト博士(モデルは実在したらしいのですが)は、中世ヨーロッパにおける最高学位のドクトルを手にした極めて優秀な学者でした。

当時大学に存在した哲学、法学、医学、神学の四つの学問を究めてしまいますが、死を迎える数日前に、「学ぶ前に比較して、自分は少しも利口になっていない」と嘆き、学問の追求だけでは充足感を得られないと、人生に失望しています。

そこに現れたのが黒い犬に扮した悪魔のメフィストフェレース。

悪魔の自分との間に契約を結べば、この世の人生で、今後自分がファウストに伺候して、ありとあらゆる享楽を体験させることを約束する。

その代わり、あの世では、立場を入れ替えて自分に仕えるという契約をしようと言うのです。

この話、実は全くフェアではありません。現世の生を費えた瞬間から未来永劫、悪魔に仕えなければならないわけですから。

ファウストは逡巡しますが、あの世のことなどどうでも良いと考え、ついに死後の魂を売る契約をしてしまいます。

契約をした後、メフィストのアドバイスに従って、自らの若い肉体と、美しい娘グレートヒェン(マルグリート)を手に入れ、人生の中での「最も美しい瞬間」を追い求めるファウスト。

しかしながら、この物語は、悲劇的な結末を迎えるのです。 

この老ファウストの物語に影響を受けた多くの作曲たちが、数多くの曲を作ります。

フランツ・シューベルトのリート「糸をつむぐグレートヒェン」

フランツ・リスト「ファウスト交響曲」

ロベルト・シューマン「ファウストからの情景」

シャルル・グノーのオペラ「ファウスト」(1894年日露戦争の開戦の年ですが日本で初めて公演されたオペラです。)

ムソルグスキーの「蚤の歌(アウエルバッハの酒場でのメフィストフェレスの歌)」

マーラーの交響曲第八番

などがファウストより生まれた楽曲です。

「ファウストの劫罰」の作曲者であるフランス人のベルリオーズもまた、ファウストの物語に心を奪われた一人でした。

ベルリオーズは若かりし頃、「ファウストからの8つの情景」という曲を作曲し、ゲーテ本人にこの楽譜を2部進呈したのです。残念ながらベルリオーズはゲーテから返事をもらうことができなかったようですが、ファウストの素晴らしさを友人であったリストに伝えます。リストはこのファウストを座右の書として何度も読み返します。

約20年後にベルリオーズが「8つの情景」を進化させて「ファウストの劫罰」が完成させると、これを進呈されたリストが作品に影響を受け、「ファウスト交響曲」を作り上げるのです。

この時代の音楽と文学の歴史が長い年月をかけて絡み合い、繋がっているのは、すごいことだと思いませんか?

さて、今回の「ファウストの劫罰」の初日公演ですが、世界的な知名度を誇るダンサーを率いるH・アール・カオス主宰の大島早紀子さんが演出振り付けをされたのです。2007年のリヒャルト・シュトラウスの「ダフネ」のセンセーショナルな舞台を創出して以来の二期会の演出でした。

004

歌手陣も素晴らしかったとは思いますが、特に「言葉を発しない」ダンスのチームの表現力には、視覚的に圧倒されましたよ。

オペラでは普通ならば、歌手の歌う舞台の上は、単なる背景です。

しかしながら、今回の「ファウストの劫罰」では、大島さん率いる通常の人間には考えられないほど鍛えられた肉体を持った6人の女性ダンサーが、細いワイヤーを使用して、宙に舞う演技を行ったり、階段を転げ落ちる特殊なダンスを行ったりと、オペラの視覚的な新境地を見せて頂きました。

全ての振り付けが、オーケストラのリズムに見事なまでに合致している。

しかも、劇的物語というオペラと交響曲との間に分類されるこの公演で、ソロの歌と歌との間隙のオーケストラの演奏中に、曲にとけ込むように調和した見事なダンスが行われるのには感動しました。

オペラは命を持った生き物ですので、会場の聴衆の盛り上がりや雰囲気によって、テンポも抑揚も変化します。そうした中、その時々の曲に合わせて高度な技術レベルのダンスを、ダンサーにリズミカルに踊らせる。相当な技術と表現力が必要なはずです。

どのシーンも素晴らしかったのですが、マルグリートが昇天するシーンがあまりに美しく目に焼き付いて、忘れられません。

あのような演出は、他では絶対に観れませんよ。本場であちらの歌手陣と共演しても、非常に高い評価を受けると思います。

本当に素晴らしい夜でした。


新国際学会周遊記

カテゴリー
  • News - クリニックからのお知らせ -
  • Guest Room - ゲストルーム -