学会を終えた翌日。朝3時に起床して、5時40分の飛行機に乗り、ニューヨークにやってきました。
ニューヨークで幾つか打ち合わせもあったのですが、仕事を万事終えた後、夜のMETでオペラ鑑賞を楽しみにやってきました。
僕にとってMET詣では、アメリカ東海岸で仕事をし頑張って結果を出せたときの御褒美ですね(笑)。
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今回のASLMS米国レーザー医学会は、キャンデラ社やサイノシュア社に招待された初参加の先生方がいらしてたこともあり、例年より日本人医師の参加が多かったように思います。
最先端のテクノロジーに対する理解と繊細な機器操作、正確性、コツコツと時間をかけて治療に取り組む姿勢が求められるレーザー治療は、日本人であれば元々備え持つ特性を生かすことの出来る医療分野でもあり、日本人医師の優秀さを世界にアピールするチャンスが多く秘められたものでもあります。
中国や韓国、シンガポールなどの台頭もありますが、僕含めこうして一人でも多くの医師が毎年学会に参加することで、日本の存在感みたいなものを常に維持しアップグレードできると良いですよね。
僕自身の歩んできた道を振り返ると、痛み治療の研究をしたくて麻酔科の門を叩き専門医を取得し、ちょうど進路を迷っていた大学院で研究を始めたばかりの頃、形成外科出身でも美容外科医でもない僕が、あるレーザー企業の招待講演で、初めてアメリカレーザー医学会に参加して発表させて頂く機会を得ました。
約15年前、まだ30代になったばかりのときでした。
純理系で、帰国子女でもない僕はほとんど英語も話せず、プレゼンのため用意したセリフも棒読みでした。今思えば、よくあの英語力で発表したものだと冷や汗ものですし、その度胸もすごいと思わず過去の自分に苦笑いですが、それよりもなによりもこんな無名で若輩者の僕にチャンスをくださったことに今も感謝しています。
思えばそれが僕のターニングポイントとなり、進化しつつあるレーザー医療という分野の、世界の最高の権威ある学会に参加したことで、研究探求魂に火がついたのです。
そして、世界で頑張る、特に同じアジア圏の医師の堂々とした発表を目にして、日本人医師ももっともっと頑張らなければならない、と熱い気持ちで思ったことを昨日のことのように覚えています。
また、もうひとつ今も鮮明に覚えているシーンがあります。
研修医時代、手術中東大病院胸部外科のある先生が、
「日本語で論文を書いても自分の意見を述べる作文でしかない。英語で論文書いて査読をされ多くの指摘を受け、これを直すことで理論が補強され、初めて世界に対してアピールできる業績になるし、100年名前が残るんだ。」
という話をされたのです。
それを聞いて、まさにその通りだと僕は思い、現在までその教えを実践するように努力してきました。
大学院の研究主題を、すでに1報の英文論文を受理させていた自律神経の分野から、免疫細胞の司令塔であるマストセルに切り替え、レーザー分野に重点を置きながら演題を書くことができるように研究内容をシフトして皮膚科の研究室に通い、並行して英語も勉強してゆきました。
英語は大学受験の時にはあまり好きではない不得意分野だったので、今は当時の100倍ぐらい出来るようになりましたね。
こんなことなら、大学受験の時にもっと勉強しておけばよかったです。(笑)
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医師の職業を選択して最もよかったと思うことは、医師の仕事には多様性があり、それぞれに目指す道があるということ。
臨床が好きな医者は臨床をやり、研究が好きな医者は研究をすればいい。
職業に貴賎はないのと同様に、医師の選ぶ道にも貴賎はない。
どの道を選択しても、極めることができれば医療全体は進化しますし、それが正解です。
ナンバーワンを目指すのではなく、オンリーワンのことができる医者になればいいのです。
クリニックFでは開業以来、僕だけが診療をするというスタイルを貫いてきました。
自分が学んできた、医学、経営学、工学、薬学がレーザーにクロスする分野について、健康な人の肌質の改善のために自分の専門性が出せれば良いと思っていたのです。
ですが、昨年からがん研有明病院の若い優秀な形成外科専門医たちがクリニックにレーザー技術の習得の勉強に入るようになり、彼らとディスカションしているうちに、しばらく遠ざかっていた、白斑や、ケロイドなどの傷、乾癬などの病気の人に対するレーザー治療をもう少し進化させようと思うようになりました。
こうした治療は、日本ではクリニックFでしかできないものでないと価値がありませんで、引き続き努力し、新たなことを学んでゆきたいと思っています。
また、肉体的な限界も含め、自分があと何年、世界に出て研究発表ができるかわかりませんが、そうした治療の教育ができる慈善事業であるレーザートレーニングセンターを作るのが自分の使命だと思うようになりました。
さて、今日のMETの演題は、ドニゼッティ《ロベルト・デヴェリュー》。指揮:マウリツィオ・ベニーニ 演出:デイヴィッド・マクヴィカー 出演:ソンドラ・ラドヴァノフスキー、エリーナ・ガランチャ、マシュー・ポレンザーニ、マリウシュ・クヴィエチェン
時は16世紀のロンドン。女王エリザベス(オペラではエリザベッタ)は、アイルランドの反乱を鎮めるために恋人ロベルト・デヴェリューを派遣するが、デヴェリューは命令に反して反乱軍と和解し、反逆罪で捕らえられてしまう。
エリザベスは彼を助けようとするが、デヴェリューは以前の恋人で、女王の命令でノッティンガム公爵に嫁いだサラとよりを戻していました。2人はこのままでは危険だと別れを決意するが、恋人の心変わりを知った女王は激怒し最終的には苦しみながらも恋人を殺してしまうのです。
人生うまくいかないですね。
こちらの演題は、2016年5月21日(土)〜5月27日(金)にMETライブビューイングで放映予定です。