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BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

耳ツボを刺激することによって得られる痩身効果を、科学的にいかに立証するか

≪耳ツボを刺激することによる痩身効果を、科学的にいかに立証するか?≫

昨日より、第37回日本肥満学会が東京医科歯科大学小川佳宏教授の会長のもと東京ファッションタウンビルで開催されています。

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日本肥満学会は、研究現場では中枢性エネルギー代謝制御機能、脂肪細胞の生物学、内分泌器官としての脂肪組織、ゲノム・エピゲノム学などの幅広い分野で。さらに臨床現場では、内臓脂肪型肥満やメタボリックシンドロームの概念の確立など功績を残している、医師のための肥満症学の専門学会です。

今回の肥満学会では僕は、「耳介経絡刺激による痩身の効果判定ー1000名データの統計解析によるー」という演題を発表させていただきました。

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この発表が実現したのは、約一年半前に鍼灸の学校法人である近畿医療学園の小林英健先生より、耳介の経絡刺激による痩身の効能を現代医学で実証してもらえないか? という依頼を受けたからでした。

西洋医学と鍼灸を中心とした東洋医学とでは、医学としての成長も根拠とする理論も少しづつ違います。

個人的には健康的な生活を主体に考えた場合、どちらのよい面も利用したらよいのだと思います。

僕も数年前に「痩身を科学する」という本を書かせていただき、多くの痩身手段についてはそれなりにリサーチしたつもりでしたが、耳介経絡刺激の痩身は、古くから東洋医学の世界では指摘されていましたし、実際にも日本で20年以上も続いている痩身治療でもあり効能の証明には興味がありました。

例えば、米国では、禁断症状のある薬物を断つ際に、鍼灸刺激が利用されています。一部の文献では、鍼灸刺激がセロトニン系を賦活化させることで不安と痛みを軽減し、気分を高揚させるという点が指摘されていました。

もちろん、運動、食事、教育に勝る減量スキームはありませんが、減食がもっとも辛く、実現しにくい方法です。

そこの補佐として「耳介経絡刺激」という選択肢もありなのではないかという発想に至ったのです。

しかしながら、実際にある手法の効能を立証するのは、かなりのハードルがありましたので、戦略を練らねばなりません。

 

耳つぼダイエット法は、実際に鍼灸針を使って耳を刺激するわけではなく、小さな金属粒子を耳に貼ることによって刺激を与えます。

この刺激が、鍼灸刺激によるもとほぼ同じ刺激であることをまず立証しなければなりません。

そこで、48名を①まったく刺激のないコントロール群、②耳内針刺激、③金属粒子刺激の三群に分け、①コントロール群に対して、②と③二種の刺激が体重減少に効果があったことを統計学的に見ていき有意差を出しました。

次に、過去の鍼灸関係の論文を紐解き、実際にどの経絡が痩身に関わる可能性があるのか、割り出しました。

➀神門
➁食道
➂噴門
④胃
➄肺
➅内分泌
➆飢点

・・・というものが過去の論文でも検証がなされており、それぞれは

1.不安と痛みを軽減し気分を高揚させる
2.食欲抑制効果
3.塩味覚過敏効果
4.満腹感亢進効果
5.空腹感減少効果

・・・などの効能が認められている経絡だということになります。

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耳介内にどどまるという、使用しやすさから、このうち➀-⑥までの6点を採用したのです。

さらに、データを1000名分以上集めて、施術の前後を客観視できる機器で数値によるデータを測定し、統計解析および相関関係を調べることを行いました。

 

タニタの体組成計を用いて、3か月間の施術を行ったのちに解析を行い、まず耳介経絡刺激は、体重減少に対しては確実に効果はありそうだという結論に達しました。

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考察としては、西洋医学的な意味付けが必要です。

鍼灸刺激とはいっても、解剖学を外すわけにはいきません。

耳介周辺の解剖を、30年ぶりに勉強しなおしました。

耳介を支配する求心性知覚神経は大きく分けて3種類。

一つは耳介上部から外耳道後壁に分布する迷走神経耳介枝(副交感神経)そして、第二頚椎神経から発生する小後頭神経が耳介後部を、さらに、第三第四頚椎神経から発生する大耳介神経が耳介前下部に分布します。

今回刺激した部位は、すべてがこの迷走神経耳介枝に属します。

解剖学的には迷走神経を刺激する可能性が高いのです。

肺や噴門などの経絡刺激により塩味覚が過敏となりますが、その結果塩分摂取量が変化します。

レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系、さらにはその上位のACTHを介して水・ナトリウム代謝に影響がでることが予測される。

塩の味覚が鈍い人は塩の摂取が多いために水分貯留が起こっている可能性が高いといえるのです。

そして、今回のキーワードはレプチン。

 

レプチンは1994年に見つけられた新たなホルモンです。

脂肪細胞によって作り出され、強力な飽食シグナルを伝達し、交感神経活動亢進によるエネルギー消費増大をもたらし、肥満の抑制や体重増加の制御の役割を果たすペプチドホルモンの存在は、当時の医療界にとっても衝撃に値しました。

両側耳介経絡刺激による減量効果発現の作用機序は、「耳介鍼刺激」により耳甲介腔に分布している迷走神経枝が刺激され、視床下部の摂食調節や食欲惹起や満腹感形成に関与するニューロン群の興奮あるいは抑制がおこり、白色脂肪細胞由来のホルモンの「レプチン」カスケードを通してた結果として満腹感が形成され摂食量の減少して体重減少をきたしたものと結論しました。

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自分としてもこの論理展開は腑に落ちました。

博士論文を書く思考パターンに似ていますが、こうした多くの分野にまたがる事象の立証作業が、僕の好きな仕事なのだなあと痛感しましたよ。


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